こんにちは。
ナトリウム化合物などが持つユニークな性質「潮解」と「風解」は、受験生が混乱しやすいところです。
混乱を防ぐためには「なぜ起きるのか」というメカニズムをしっかり押さえておくことが重要。
今回は「風解」について、詳しく説明していきます!
目次
風解とは
多くのイオン結晶は「水和水」と呼ばれる水分子を結晶構造の中に取り込んでいます。
化学式の一番最後に「〜•◯H2O」と書かれるアレですね!(○は結晶における水和水の比率です。)
水和水をもつ結晶を乾燥した空気中に置いておくと、水和水が徐々に蒸発していき、最終的には透明な結晶がサラッサラの粉状になるという驚くべき現象が起きます。
この現象を風解といいます。
キラキラした結晶が、砂のようになって手からこぼれ落ちてしまう。
なんか映画のワンシーンのようですね!
でもなぜこのような現象が起きるのでしょうか?
風解のメカニズム
風解は結晶に取り込まれた水和水が蒸発によって失われ、結晶の構造にすき間がたくさんできることによって起きます。
そのメカニズムを順を追って確認していきましょう!
水和水の結晶への取り込み
電解質の水溶液を濃縮していくと、溶けきれなくなった分が固体になって析出します。
この時、陽イオンと陰イオンが最も安定な配列で規則的に並んでいくので美しい「結晶」になるんですね。
しかし大きさが著しく異なるイオン同士の場合、配列にたくさんの「すき間」が出来てしまいます。
下の図は風解性を持つ代表的な物質「炭酸ナトリウム」の結晶構造の模式図です。(本来はもっと複雑ですが、説明のために単純化しました。)
ナトリウムイオン(Na+)に比べて炭酸イオン(CO32-)はかなり大きいので、大きなすき間がたくさん出来ていますよね?
このようにすき間が多い構造だと、結晶はもろくなってしまうことに…。
なんとかしてこのすき間を埋めることができれば、結晶が安定するのに…
ここで登場するのが水分子です!
極性をもつ水分子は結晶中の陽イオンにも陰イオンにも、静電気力によって引きつけられます。
とりこまれた水分子が結晶構造の中に入り込んですき間を埋め、結晶構造を安定させるのです。
水分子の空中への蒸発
結晶中の水和水は、結晶が水の中にあるときは安定しています。
しかし結晶を乾燥した空気中に出すと、水和水が蒸発して飛んでいってしまう物質もあるのです!
たとえば、一価のナトリウムイオン(Na+)は水分子を引きつける力が弱いので、水和水の飽和蒸気圧が周囲の空気の水蒸気圧より大きくなりどんどん蒸発していってしまいます。
最終的にすべての水和水を失った結晶はもろくなり、形が崩れて粉末に。
これが風解です。
しかし、すべての水和水を持つ結晶が風解するわけではありません。
例えば、価数の大きなアルミニウムイオン(Al3+)は、水分子を強く引きつけているため、水和水の飽和蒸気圧は大きくならず水分子は結晶中に安定的に存在します。
したがって硫酸アルミニウム十八水和物(Al2(SO4)3•18H2O)は、18コも水和水があるのに風解しません。
風解と潮解との違い
「潮解」は風解と名前こそ似ているものの、全く異なる現象です。
水酸化ナトリウムなどの溶解度が非常に大きい物質は、空気中の水分を吸ってその中に溶けてしまいます。
この現象を潮解といいます。
でもなぜ炭酸ナトリウムは「風解」するのに、同じナトリウム化合物の水酸化ナトリウムは「潮解」するのでしょう?
理由は結晶構造と水溶性の違いです。
炭酸イオン(CO32-)は大きいイオンなので、炭酸ナトリウムは結晶中にたくさんすき間ができ水和水を取り込みます。
一方水酸化物イオン(OH–)は小さく、水酸化ナトリウムは結晶中に水和水を持ちません。
水和水が失うことが風解ですので、水和水を持つ炭酸ナトリウムは風解し、持たない水酸化ナトリウムは風解しないのです。
また水酸化ナトリウムの水への溶解度は20℃で1110g/l、一方炭酸ナトリウムは220g/lです。
その差はなんと5倍!
この圧倒的な水への溶けやすさのせいで、水酸化ナトリウムは空気中の水分すら吸収し潮解するのです。
水酸化ナトリウムの性質について詳しく知りたい人は、この記事も読んで見てください。
風解性を持つ物質
次は風解性を持つ物質を見ていきましょう!
炭酸ナトリウム十水和物(Na2CO3•10H2O)
透明な炭酸ナトリウム十水和物(Na2CO3•10H2O)の結晶を乾いた空気中に置くと、水和水を失って白色粉末の炭酸ナトリウム一水和物(Na2CO3•H2O)になります。
炭酸ナトリウムは受験にも頻出の物質。
炭酸ナトリウムの性質についてもっと詳しく知りたい人は、こちらの記事も読んで見てください。
硫酸銅(II)五水和物(CuSO4•5H2O)
美しい青色の結晶である硫酸銅(II)五水和物(CuSO4•5H2O)も風解性があります。
水和水を完全に失った硫酸銅(II)無水物(CuSO4)はなんと色が変わり、白色粉末になります。
上の写真は硫酸銅(II)無水物に水を滴下したシーンです。
白色粉末の無水物が水和水を得ると、青色の五水和物になるのがわかりますね!
硫酸銅(II)五水和物は受験では計算問題によく出てきます。
この記事で受験生がつまずきがちな硫酸銅(II)五水和物の計算問題を詳しく解説しているので、計算問題が苦手な人はぜひ読んでください。
ミョウバン(AlK(SO4)2•12H2O)
ミョウバンは正式には「硫酸カリウムアルミニウム十二水和物」という、早口言葉のような名前を持ちます。
ミョウバンの結晶づくりは、家庭でもできる化学実験としてよく書籍などで紹介されていますね。
しかしせっかく出来たキレイな結晶を乾燥剤を入れた容器に入れておくと…
風解によって水和水を失い、だんだん白く濁ってしまいます。
結晶を長持ちさせたければ、乾燥剤は入れないでください。
そのかわり「しっかり密閉する」ことが大切です。
容器内が水和水の飽和蒸気圧に達すると、もうそれ以上風解はしません!
まとめ
この記事では風解を徹底解説しました。
風解とは、結晶中の水和水を失って粉末状になること
風解性を持つ物質は、陽イオンと陰イオンの大きさが著しく異なるイオン結晶(塩)
潮解は、空気中の水分を吸収しその中に溶ける現象
です!
アルカリ金属で風解を起こす物質に炭酸ナトリウムがあります。これめちゃくちゃ重要な物質ですので、ぜひ詳しく知っておきましょう!
このほかアルカリ金属に関して重要ポイントを全て1つの記事にまとめました。
- ソルベー法
- アルカリ融解法
- 熱分解
- 融解塩電解
これらアルカリ金属で出題される全ての内容を1つの記事にまとめました。ぜひこちらをご覧ください。