こんにちは。
水を多く入れて炊いたご飯が柔らかいように、「水和水が多い方が結晶は柔らかくなる」と思う人が多いですが…
実はセッコウに関しては全く逆。 水和水が多いセッコウの方が、水和水の少ない焼きセッコウより硬いんです!
その理由は「結晶構造の違い」にあります。詳しくみていきましょう!
目次
セッコウ=硫酸カルシウム二水和物
まずはセッコウとはどんな物質なのかを確認しましょう!
セッコウの化学式
セッコウ(石膏)の正式名称は「硫酸カルシウム二水和物」。
化学式は CaSO4•2H2O です。
セッコウの性質
無色〜白色の結晶です。
140℃まで加熱すると焼きセッコウに変化します。
焼きセッコウ=硫酸カルシウム半水和物
では焼きセッコウとはどんな物質なのでしょう?
焼きセッコウの化学式
焼きセッコウ(焼き石膏)の正式名称は「硫酸カルシウム半水和物」。
化学式は CaSO4•0.5H2O です。
焼きセッコウの性質
白色粉末です。
水を加えると硬化しセッコウになります。
セッコウの使用例
セッコウは身の回りの様々な場面で広く活用されています。具体例を見ていきましょう!
ギプス
粉末状の「焼きセッコウ」に加水をするだけで、硬い「セッコウ」に変化するという性質を利用し、骨折時に患部を固定する「ギプス」や歯科技工の歯型、塑像の材料として用いられています。
しかしセッコウの硬化には時間がかかるため、現在はより短時間で硬化する「ガラス繊維を用いたギプス」が一般的になっているそうです。
石膏ボード
セッコウを板状に整形した「石膏ボード」は住宅建材として広く用いられています。
セッコウの約20%は水和水。
比熱の大きな水を大量に含むセッコウは温度が上がりにくく、熱した時に生じる水が気化する時にも周囲から熱を奪うので耐熱・耐火効果があるのです。
なぜ焼きセッコウよりセッコウの方が硬いの?
水を多く入れたご飯の方が柔らかくなるし、粘土などは焼いて乾燥させれば硬くなります。
しかしセッコウはその一般的な感覚とは逆。
加水によって水和水を多く持ったセッコウは硬くなり、乾燥によって水和水を失った焼きセッコウはサラサラの粉末になります。
一体なぜ水和水を多く持つセッコウの方が硬くなるのでしょうか?
水和物ってどういうもの?
焼きセッコウよりセッコウの方が硬くなるしくみを理解するためには、「水和物」とはどういうことかを知る必要があります。
「CaSO4•2H2O」や「CaSO4•0.5H2O」の右端にある「・○H2O」が水和物のサイン。
これがある化合物は結晶構造の中に水分子を取り込んでいるのです!
でもなぜわざわざ水分子を取り込むのでしょうか?
それはその方が結晶構造が安定するから。
自然界には、より安定な(エネルギーが低い)状態へ移行していくという絶対的な法則があります。
そのため、より安定な構造に落ち着いていくのです。
例えば、水和物として有名な「炭酸ナトリウム十水和物」は下のような構造をしています。
なぜこんなにも沢山の水分子を取り込むのか?
それは水和水を持たない状態を見ると一目瞭然です。
ナトリウムイオン(Na+)と炭酸イオン(CO32-)のサイズが大きく違うため、水和水がないとスカスカの構造になってしまいます。
そのため水分子を水和水として結晶構造に取り込むことで、より安定した構造になろうとするんですね。
水和についてより詳しく知りたい人はこの記事も読んでみてください。
セッコウの方が焼きセッコウより硬い理由
「半水和物」の焼きセッコウは下のような構造をしています。
水分子が層状になった硫酸カルシウム(CaSO4)のカルシウムイオン(Ca2+)と配位結合し、硫酸イオン(SO42-)と水素結合しています。
しかし水和水の量が少ないので「すき間」が多くなり、最終的にはボロボロと崩れ粉末になるのです。
一方、焼きセッコウに水を加えて硬化させた「二水和物」のセッコウの構造は下の通り。
水和水が硫酸カルシウムの層をつなぎ、「架橋構造」と言われるガッチリとした構造を作っているのが分かると思います。
このため水を加える前の焼きセッコウよりも硬くなるのです。
まとめ
硫酸カルシウム半水和物(CaSO4•0.5H2O)、通称「焼きセッコウ」は白色の粉末です。
これに水を加えてしばらく放置すると硬化し、硫酸カルシウム二水和物(CaSO4•2H2O)、通称「セッコウ」になります。
セッコウは焼きセッコウよりも硬くなるので、骨折治療のギプスや塑像の制作に使われます。
水和水の多いセッコウの方が硬くなるのは、水分子が結晶構造の内部に入り込みカルシウムイオン(Ca2+)と硫酸イオン(SO42-)を橋渡しする「架橋結合」ができるから。
「水を加えると柔らかくなる」という一般的な感覚とは逆の反応なので、気をつけましょう!