どうも受験化学コーチなかむらです。
ピクリン酸に関するあらゆる疑問にお答えしていきます。
目次
ピクリン酸とは
ピクリン酸とは、フェノールを3箇所ニトロ化した「2,4,6-トリニトロフェノール」のことです。
名前はかわいいですが、ダイナマイトに使う爆薬です。
ピクリン酸の名前の由来
ピクリン酸の水溶液は苦味があります。
ギリシア語で「pikroo:苦い」という言葉があり、これが語源でピクリン酸となりました。
ピクリン酸の性質
ピクリン酸は黄色の物質で爆薬として使われます。
また、ピクリン酸は強酸の物質です。
酸はH+を投げる物質のことでした。ピクリン酸はフェノール性のヒドロキシ基のH+が電離します。
ピクリン酸が酸性だというのはわかるんですが、なんで強酸なんですか?
フェノールは弱酸ですよね?
ピクリン酸が強酸である理由はフェノールよりもベンゼンの電子の吸引力が強いからです。これはピクリン酸の生成反応を学んでからの方が理解しやすいので後ほど解説します。
ピクリン酸の作り方〜生成反応〜
ピクリン酸はフェノールに混酸(濃硫酸+濃硝酸の混合溶液)を加えてニトロ化することでできます。
この反応の流れを解説していきます。
ステップ1:硫酸が硝酸をNO2+にする
硫酸は強酸です。H2SO4のH+を投げたくて仕方がないので、H+を投げる相手を探しています。
そんな時に、硝酸の非共有電子対を見つけます。H+は電気的にプラスに帯電しているので、マイナスにH+を投げつけたくて仕方ないのです。
そこで硫酸が硝酸の非共有電子対に向かって電子を投げつけます。
すると硝酸のヒドロキシ基のOが思うわけですよ。
俺がどれだけ電子好きかわかってないの? 周期表の右上やぞ? 電気陰性度Fに次いで2位なんやで?
Nとの共有電子対は俺が奪ったる!
このように、硝酸のヒドロキシ基の酸素原子Oは、H+を仕方なくキャッチする代わりに、Nから電子を奪い取ります。
すると下のように硝酸のヒドロキシ基が水として分離します。
水が取れて、HNO3がNO2+(ニトロイルイオン)に形を変えます
これでニトロイルイオンNO2+ができました!
ステップ2:ニトロイルイオンNO2+がフェノールのベンゼン環を置換
ニトロイルイオンでフェノールを置換していきます。
この時オルト位とパラ位を置換します。
水素を弾き飛ばして、ニトロ化されます。ピクリン酸ができます。
ニトロ化の流れと同じですね!
あれ、でも2個ほど疑問点が…
- 硫酸はなんで反応式には出てこないの?
- オルト位とパラ位ばっかりなんで反応するの?この理由は?
おそらくピクリン酸の生成反応を学んだ人はこの2個の疑問点が湧いてくると思います。
次にこの2つの疑問にお答えしていきますね。
ピクリン酸の生成反応で硫酸はなんで反応式に出てこないの?
ニトロ化の時にNO2+にベンゼン環にくっついていたHが吹き飛ばされていますよね?
こいつが硫酸のところに戻っていき、HSO4–+H+→H2SO4のように硫酸に戻っていきます。
ピクリン酸の生成反応のステップ1で、NO2+を作るために硫酸はH+を投げていますよね?
この時に失ったH+をなんとベンゼンから取り戻しているんです。
たしかに、硫酸はHNO3をNO2+にするためにH+を投げています。しかし、硫酸が硝酸に投げたH+はNO2+がベンゼンから弾き飛ばしたH+で回収します。
反応の前後で硫酸はH2SO4のままですから触媒ですね。
ピクリン酸はなぜオルトパラ位がニトロ化されているの?
ピクリン酸はフェノールのo位とp位にニトロ化した物質です。
理由はオルトとパラが反応しやすいからです。
ニトロイルイオンは陽イオンでした。
「+」が引かれるのは「ー」ですよね。
ヒドロキシ基がくっついているベンゼン環はオルト位とパラ位がマイナスに偏っているのです。
フェノールのオルトパラ位はマイナスに偏っているので、ニトロ化されやすいんです。
この性質をオルトパラ配向性と言います。
なぜオルトとパラが電気的にマイナスに偏っているのかの理由(オルトパラ配向性)を軽〜く解説します。詳しくは「オルトパラ配向性とメタ配向性の理由と性質」で解説してます。
この非共有電子対がベンゼン環に流れ込みます。
流れ込んだ電子は「o位」→「m位」→「p位」へと流れていきます。その過程で「o位」と「p位」にとどまり、「m位」は素通りします。
このようにしてオルトパラがマイナスに偏っているので、オルトパラがニトロイルイオン(NO2+)を引き寄せやすくなります。
オルトパラ配向性からo位とp位にニトロ基がくっつきます。
高校の授業ではもしかしたらオルトパラ配向性を習っていない人もいるかもしれません。
しかし、高校化学の反応でオルトパラ配向性を知っておかないと理解できない(丸暗記しなければならない)反応がたくさんあります。
この機会にオルトパラ配向性を理解しておきましょう。より詳しい解説を以下の記事でしておりますので、ぜひこちらもチェックしてみてください。
↑こちらの記事ではオルトパラ配向性とは逆に、メタ位の反応性が高くなるメタ配向性についても解説しています。
ピクリン酸はなぜ強酸なのか?
冒頭にも書きましたが、ピクリン酸は強酸です。上記のようにヒドロキシ基がH+を投げます。
なんでフェノールは弱酸でピクリン酸は強酸なんですか?
このような疑問が湧くでしょう。
フェノールとピクリン酸を比較しながら解説していきましょう。
構造を比較すると、フェノールが弱酸でピクリン酸が強酸である理由は3つついているNO2+に原因がありそうですよね?
オルトパラ配向性の時にも少し話しましたが、ヒドロキシ基の非共有電子対はベンゼン環に吸い寄せら得ます。
酸素は電気陰性度は全ての元素の中でも2番目に大きいです。
本来は電子を渡したくないのです。だけど、ベンゼン環に吸い寄せられ、自分の大事な電子を少し取られてしまいます。
ベンゼンの本来の姿は左の単結合と二重結合が交互に存在しているわけではなく、1.5重結合が全体にできている右のような構造です。
これだけではわからないと思いますが、あまりにも記事の内容から離れるので、「ベンゼン環の構造式の書き方の謎、中に◯書くやつなんなん?」で詳しく解説します。本記事では「非共有電子対はベンゼンに吸引される」と覚えておけばOKです。
このような流れでヒドロキシ基のOとHの間の共有電子対をOが独占します。
すると、当然H+が切られます。
このようにしてフェノールは酸性になります。
ピクリン酸も同様です。
ただ、フェノールとピクリン酸の違いはベンゼン環がヒドロキシ基の酸素原子から奪い取る電子の量です。
フェノールとピクリン酸を比較すると、ピクリン酸の方が酸素から奪う電子の量が多いです。
理由は、ベンゼン環がニトロ基に電子を奪われているからです。
ニトロ基は電子を奪いたいです。ニトロ基のNはOに次いで電気陰性度が大きく、ベンゼン環を構成する炭素よりも電気陰性度が大きいです。
さらに、ベンゼン環に吸い取られるような非共有電子対もありません。
ピクリン酸のベンゼン環はフェノールのベンゼン環以上に電子を吸い取りたいのです。
ヒドロキシ基が電子を吸い取られるということは、OHのHから共有電子対を奪い取り、H+を切断する数も増えます。
このようなメカニズムからピクリン酸は強酸になっているのです。
まとめ
- ピクリン酸はフェノールに混酸を反応させるとできる
- オルトパラ配向性よりo位とp位がニトロ化される
- 濃硫酸は触媒である
- ピクリン酸は強酸
ピクリン酸の生成反応の中には有機化学で重要な反応や性質が大量に出てきました。
などなど、他の有機反応を学ぶ上でも重要な反応や性質がありましたので、ぜひ復習してみてください。