こんにちは。
電池の問題で入試で非常によく出るのが鉛蓄電池です。
このような知識がある人は多いでしょう。しかし、理論化学は鉛蓄電池で計算が出てくるんですよ。
どういう問題が出るか例を出すと、
みたいな計算になるんですよね。もうお手上げになりますよね。
ただ安心してください。鉛蓄電池は一度できるようになると、二度と間違うことはありません。なぜなら電池としての仕組みが凄すぎるのです。
- 正極でも負極でも鉛(Pb)の化合物だけで成立させている
- 使うものは豊富にある硫酸と水
- 沈殿を再利用する流れも完璧(充電から放電の流れ)
なので入試問題では、流れを知っていたら解ける問題なんですよ。しかもライバルの受験生はこのことを知らないんです。なので鉛蓄電池の仕組みをバッチリ理解してください。
この記事では、
- 鉛蓄電池の仕組み
- 鉛蓄電池の問題の解法
この2つをしっかり理解していきましょうね!
[quads id=5]目次
鉛蓄電池の原理をわかりやすくまとめてみた
鉛の性質を利用
鉛には『酸化数が+2になりたくて仕方が無い』という性質があります。
このため、Pb(酸化数0)の状態よりも、PbO2(酸化数+4)の状態よりもPb2+(酸化数+2)のほうが心地が良いのです!
だから、単体のPb(酸化数0) 酸化物PbO2(酸化数+4) こいつらも酸化数+2になりたいのです!
Pb単体とPbO2を遠距離恋愛をさせて、熱々エネルギーを取るために導線を引き、その間のアツアツエネルギーをパクってきたのが鉛蓄電池なのです。
電池の原理については、
で書きました。
電池は、還元剤と酸化剤のアツアツのラインからアツアツエネルギーをハッキングして電気を奪うのが原理でした。
結果的に電子がPbからPbO2へ移動し、
Pbが負極、PbO2が正極となる。
にも書いたが、電池の極の定義は、
「還元剤が負極、酸化剤が正極」と
覚える!
もちろん、基本的にはイオン化傾向でかたがつくのですが、今回の場合のようにどっちがイオン化傾向が大きいかなんてわかりませんよね?両方鉛だから。
よって、還元剤が負極、酸化剤が正極とおぼえておいたほうが圧倒的に便利なのです!
極ごとのイオン反応式
負極の放電反応
Pbが電子を放出して、Pb2+イオンになります。
しかし、生成したPb2+イオンは希硫酸中で
SO42-イオンにより硫酸鉛になる。
希硫酸由来のSO42-でPb2+は
PbSO4となり沈殿する。
ということは、
この可逆反応は右に進み続けます!
よって、限界まで電子を投げ続ける!
負極のイオン反応式はこのようになります。
(-)Pb+SO42-→PbSO4+2e–
正極の放電反応式
PbO2は電子を受け取り続ける!
電子を受け取るから酸化剤として
働く!
(+)PbO2+4H++2e–+SO42-→PbSO4+2H2O
これが負極のイオン反応式です。
鉛蓄電池の蓄電の原理
まずそもそも蓄電池とは何でしょうか?
いったん放電すると、充電しても元の状態に戻せないのを1次電池と言います!ダニエル電池やボルタ電池などは、反応に終りがありまして、充電はできません。
市販の乾電池などはこれに当たります。
しかし、鉛蓄電池のような、蓄電池は充電が可能なのです。放電する反応の逆も頑張れば起こせるということです。このように再利用できる2次電池のことを蓄電池といいます。
なぜ、鉛蓄電池が充電できるかというと、鉛蓄電池の極板である鉛と酸化鉛には、腕がついているのです。つまり、こういう状態をイメージしてください。
なかなかの圧迫感(笑)
そして、鉛蓄電池の原理というのは、このように電子が負極から正極に流れるというものです。
この時、負極でも正極でもPbSO4の沈殿ができますよね。そして、こいつらに腕がついていることによって、沈殿が溶液の下に落ちないのです!
そしてここが鉛蓄電池の肝なんですが、Pb、PbO2に腕がついているんです!このひだにPbSO4の沈殿が落ちずに極板にくっついた状態なのです。
極板にくっついていると、
すると、さきほどの右辺から左辺への逆反応を無理やり起こすことができます。
(-)PbSO4+2e–→Pb+SO42-
(+)PbSO4+2H2O→PbO2+4H++2e–+SO42-
の反応のように、沈殿であるPbSO4がPbとPbO2に戻ります。
こうすれば、またPbとPbO2を普通に繋げば、鉛蓄電池の放電が始まります!このように蓄電池は元に戻すことができます。
PbSO4が沈殿して容器の底に落ちてしまっては充電できない!
だから、『腕』が重要なのです!
受験テクニック「放電のモル比」
まず先ほど見せたイオン反応式から、
『化学反応式』をまとめてみましょう!
これが鉛蓄電池の反応式となります。
この反応式で最も着目すべき、受験で問われる量関係を解く上で最強のテクニックをお教えします!
まず、鉛蓄電池で出題される問題は、
②溶液(極板以外)の質量変化
③電子が流れた後の溶液の濃度、密度
この3つであることがほとんどです!③は①②を求められれば、簡単に求めることができます。溶液中の硫酸の質量と溶液全体の質量が分かればパーセント濃度は一瞬で求められる。
つまり、①と②を求める方法を知っておけば鉛蓄電池はすべての問題を解くことができます。
そして、もちろん理論化学で重要なのは、『モル』ですよね。鉛蓄電池も酸化還元ですので、電子のモルをまず求める必要があります。
まず、半反応式を考えると一発です。
(-)Pb+SO42-→PbSO4+2e–
負極は、PbがPbSO4になります。電子が2mol流れるごとに、SO4分つまり96gだけ負極の質量が増加するのです。
ということは、電子が1mol流れるごとに負極は48gだけ質量が増加するのです。
(+)PbO2+4H++2e–+SO42-→PbSO4+2H2O
正極は、PbO2からになります。電子が2mol流れるごとにSO2分つまり64gだけ正極の質量が増加するのです。
ということは、電子が1mol流れるごとに正極は32gだけ質量が増加するのです。
このように電子が1mol流れるごとに負極と正極の増加質量を
負極 | 正極 | |
増加質量 | 48g | 32g |
これは、特に難しくありませんので毎回導出することもできます。しかし、鉛蓄電池が出てきた場合は、ワンパターンで使えるので覚えておいて損はないでしょう。
そして、この48gと32gを足し合わせると80gになります。この80gは溶液の硫酸から取ってきたものです。つまり、電子が1mol流れると溶液の質量は80g減少するとおぼえておきましょう!
また、別の考え方で電子1mol流れるあたりの溶液の減少量を導出することができます。
Pb+PbO2+2H2SO4→2PbSO4+2H2O
のような化学反応式になります。そして、この反応には、電子が2mol流れています。
つまり、電子が2mol流れると硫酸が2mol減少して水が2mol増えるということがこの鉛蓄電池の化学反応式からわかりますよね!
てことは、これを電子1molあたりにすると、溶液の質量はどのように変化するでしょうか?
溶液から1mol98gの硫酸が減少して、1mol18gの水が増加するのです。つまり、-98+18=-80。
電子が1mol流れると、この鉛蓄電池の電解質の希硫酸の溶液の質量は、80g減少します。
これで、先程の極板の質量の増加の話と溶液の質量の増加の話のつじつまがあいましたね!
これさえわかれば、あとは濃度を求めたり、密度を求めるだけなんです。
実は問われるところなんてこれだけ、
これさえ分かっていれば本当に
鉛蓄電池なんて余裕なんです!
鉛蓄電池が出題されてガッツポーズ
してないやつにはこれで確実に勝てます!
ただ、これだけ言われて
問題が解ける人もかなり少ないと思います。
なので実際の問題では
どのように使うのか?
と言うのを見ていきたいと思います。
鉛蓄電池の問題演習
例題
鉛蓄電池を用いて白金板を電極にして硫酸銅水溶液を電気分解すると、陰極に5.08gの銅が析出した。鉛蓄電池には質量パーセント濃度が35%の硫酸1000gが使われたとすると、電解後、硫酸の質量%はいくらか。
この問題は、鉛蓄電池が電子が
流れることで、
溶質も溶液全体も質量が小さくなる
ことを理解できているかを問う問題!
解答
電解槽の反応式は
鉛蓄電池の反応式は
つまり先ほど言ったように、
PbからPbO2に2e–
の電子が流れている。
流れた電気量は
となります。(すべての極板に流れる電子のmolは一緒なので、どこか一つで求めることができればOK今回は銅の質量が与えられているから、銅のmolを求めて、その2倍が電子のmolである)
正直、電子のmolを求めてしまったら鉛蓄電池なんて秒殺です。今回の問題は、電子が流れた後の希硫酸の濃度を求めるのであるから、
溶質(硫酸)の質量と溶液全体の質量さえわかればいいのである。
まず、硫酸の質量は電子1mol流れると、溶液から硫酸が98g減少するので、溶質は
98×0.16g減少する。
そもそも元々35%が1000gであったので、元々硫酸の溶質は350gであった。
つまり、今回溶液全体の質量の減少は、80×0.16=12.8gとなる。
上でも解説していますが、この80は電子が1mol流れた時の溶液全体の質量減少量です。
さっきも解説しましたよね!
1mol電子が流れると、硫酸98g溶液からなくなります。その代わりに水18gが溶液に追加されます。
ってことは電子が1mol流れるごとに(98-18)g=80g分の質量が減るのです。
よって
この式で求めることができます。
よって答えは34%になります。
あっけない幕切れでしたね。別にこれが密度を聞かれても全く関係なくできます。
まとめ
鉛蓄電池は、電子1molあたりの極板の質量の増加量と溶液の減少量さえ知っていたら、一瞬でどんな問題でも解くことができます。
極板の場合は、
負極 | 正極 | |
増加質量 | 48g | 32g |
だし、溶液全体は電子1mol流れると80g質量が減少する。
本当にこれだけです。なので、きっちりマスターしておきましょう!
それでは!
初めまして、突然のコメント失礼致します。こちらのページを拝見し、鉛蓄電池の反応を理解できました。わかりやすく説明してありとても参考になりました。ありがとうございます。
試験に出るツボ の ②
PbがPbO2に変化する というのは PbSO4の間違いでしょうか?
当方の理解不足でしたら申し訳ありません。ご確認だけでもお願いできればと思います。
鉛蓄電池以外にも、わからない化学の問題に出会った際にはぜひ参考にさせていただきたいと思います。突然失礼致しました。
ありがとうございます!
PbからPbSO4でした。
ご指摘ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします。
付加重合の開始剤はなぜ少量出なければならないか,感動しました。π結合とラジカル反応
の考え方でこんなに簡単に理解できるのですね。
ヘキストワッカー法はじめてしりました。便利な方法ですね。PbCl2恐るべし。
コメントありがとうございます!
そうなんですよ!ラジカルとかあの辺って別に全然高校生でも解るのに
教わらないから逆に解りにくくなってるんですよね〜
電池めっちゃ苦手です…教科書読んでてもさっぱりわかりませんし、問題も解けません(´;ω;`)
例題含めてしっかり覚えます!
そうなんですね!頑張って下さい!
このサイトに出会えてよかったです。
友達にも勧めようと思います!
ありがとうございます!
是非お願いします!
最後から5行目あたりの
「また溶質の硫酸も電子が流れることで、
よって電解後の濃度は、」
の文脈がよくわかりません。
減少する。ですね。申し訳ありません。
SO2ってどこからきてるのか教えてください…意外とわかってませんでした…
PbO2→PbSO4になるので、
差分がSO2になります。
例題についての質問です。
正極負極と陰極の反応式はわかったのですが、陽極がなぜそうなるのかがわかりません。
あと、硫酸の質量が96g減少するのは正極負極それぞれで1molにつき48gずつ硫酸が減少するからですか?
最後の計算の−96×0.16のところが−98×0.16だと思ってしまったのですがなぜ−96なのですか?
すみませんアホな質問かもしれません汗
ありがとうございます。修正いたしました。
鉛蓄電池の充電で、水素イオンではなくPbSO4が優先的に還元されるのはなぜですか?
電気分解のところを参照してください!
80×0.16の80ってどこからでてきたのですか?
98(硫酸の分子量)ー18(水の分子量)です。
「-98×0.16g減少する」の左端の「-」はマイナスという意味でしょうか?
すみません。変なことになってましたね。
修正しました
鉛蓄電池の例題では水による全体質量の増加は考えなくて良いのですか?
考慮されています。
本記事のノウハウをもう一度確認してみてください。