こんにちは。
カフェオレにどれだけ牛乳を追加しても薄〜いカフェオレになるだけなのと同様に、酸性溶液をどれだけ希釈しても薄〜い酸になるだけで塩基性溶液にはならないことは体感的にわかります。
しかし、それを数式に基づいて理解できている人はあまりいないのではないでしょうか?
理系なら知識として知っているだけでなく、数式で理解できてナンボです!
この記事では酸に水を加えてもpH7を超えない理由を、科学的かつ分かりやすく解説していきます!
目次
そもそもpHとは?
まずはそもそもpHが何を意味するのかを、おさらいしておきましょう。
pHとは「Power of Hydrogen=水素イオン指数」の略で、水溶液中の水素イオンの濃度によって酸・塩基の強さを表したものです。
ただ身の回りにある物質の水素イオンの濃度の幅はおよそ1.0〜0.00000000000001(mol/L)と非常に広いため、濃度そのものではなく濃度の逆数の常用対数が指標として用いられます。
例えば水素イオン濃度が0.1mol/Lの時は、0.1=10-1なので「逆数の常用対数」は-log1010-1=1となり、pHは「1」。
水素イオン濃度が0.01mol/Lなら、0.01=10-2なので-log1010-2=2よりpH2となります。
pHで塩基性の強弱も表せるのはなぜ?
でもなぜ水素イオン濃度指数である「pH」で、塩基性の強さも表すことが出来るのでしょうか?
そのカギを握るのは「水のイオン積」という考え方。
純水(H2O)は下式のように、ごくわずかに電離します。
H2O ⇄ H+ + OH–
この平衡状態を平衡定数Kを使って表すと
K = [H+] [OH–] / [H2O]
です。
しかし[H2O]=55.5(mol/L)に比べ[H+]や[OH–]は0.0000001(mol/L)程度とはるかに小さいので、この電離によって[H2O]の値はほぼ変わりません。
そこで[H2O]も定数とみなし、K[H2O]を新たな平衡定数KWと置くと上の式は
KW= [H+] [OH–]
と変形できます。
この式の意味するのは「ある温度における水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度の積(水のイオン積)は常に一定の値になる」ということ。
そしてKWの値は25℃で1.0×10-14(mol/L)2になります。
つまり、もしある塩基の水酸化物イオン濃度[OH–]が0.1mol/Lなら
KW= [H+] [OH–]
1.0×10-14 = [H+] × 1.0×10-1
[H+] = 1.0×10-13 (mol/l)
のように、水素イオン濃度[H+]に変換することが可能。
したがって塩基の強弱もpHで表せる、というわけです。
-log1010-13 = pH13
水のイオン積についてより詳しく知りたい人は、この記事も読んでみてください。
強酸を薄めてもpH=7を超えない理由を(定量的に)示す
ではいよいよ、なぜ酸をいくら薄めてもpH7を超えないのかについて解説していきます!
結論から言いますと、酸の電離が小さくなっても水の電離(H2O⇄H++OH–)の影響を無視できないからです。
pH6の塩酸(HCl)を100倍に希釈した状態を想定しましょう。
強酸である塩酸は100%電離するため、モル濃度=水素イオン濃度となります。
ということは塩酸が放出する水素イオン濃度は1.0×10-8mol/Lですよね。
これだけみるとpH=8だと早とちりしてしまいそうですが…
大事なことを忘れていませんか?
そうです!希釈に使った水にも水素イオンが含まれているのです!
というわけです。
計算でpH7を超えないことを確かめてみよう!
では先ほど説明した「水のイオン積」の式を使い、実際に計算してみましょう。
基本の式はこうでしたね?
KW= [H+] [OH–]
Kwには1.0×10-14(mol/L)2を代入します。
そして大事なのは、[H+]は塩酸の電離によって生じた水素イオン濃度=1.0×10-8mol/Lと、水の電離によって生じた水素イオン濃度の合計だということです。
ただし水の電離によって生じた水素イオンの濃度は不明なので「x」と置きます。
また水は
H2O ⇄ H+ + OH–
のように電離するので、放出される水素イオンと水酸化物イオンは同じ数。
つまり水の電離によって生じた水酸化物イオンの濃度も「x」となります。
これらをすべてKW= [H+] [OH–]の式に当てはめると、
という式が立てられます。
あっ、これ中学校の数学でやった「二次方程式」ですね!
解の公式を使って解いてみましょう!
解けました!
水の電離によって生じる水素イオン濃度は9.5×10-8(mol/L)です。
これを塩酸の電離によって生じる水素イオン濃度と合算すると
[H+] = 1.0 × 10-8 + 9.5 × 10-8
= 1.05 × 10-7 (mol/L)
すなわち、pHは
-log10(1.05 × 10-7) = 7 – 0.02 = 6.98
となります!
pHが7より小さくなりました。
pH6の塩酸を100倍希釈しても、若干酸性ですね!
とはいえ、薄すぎるので青いリトマス紙をつけても赤色にはなりません。
強塩基を水で希釈してもpH=7より小さくならない理由
では続いて、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性の液体を薄めていった場合についても考えてみましょう。
pH8(pOH=6)の水酸化ナトリウム水溶液を1000倍に希釈すると、水酸化物イオン濃度は1.0×10-8mol/Lになります。
水の電離によって生じた水素イオン、水酸化物イオンをそれぞれxmol/Lとします。
先程と同様KW= [H+] [OH–]に数値を代入していくと
という式が導かれます。
水の電離によって生じる水素イオン濃度は9.5×10-8(mol/L)です。
これを水酸化ナトリウムの電離によって生じる水素イオン濃度と合算すると
[OH–] = 1.0 × 10-8 + 9.5 × 10-8
= 1.05 × 10-7 (mol/L)
すなわち、pOHは
pOH=-log10(1.05 × 10-7) = 7 – 0.02 = 6.98
となります!
ここで求めてきたのは、pHではなくpOHです。
pH=14-pOH=14-6.98=7.02 >7
pHが7より大きくなりました。
- 強酸にどれだけ水を加えても超薄い酸性になるだけで、塩基性にはならない
- 強塩基にどれだけ水を加えても超薄い塩基性になるだけで、酸性にはならない
当然といえば当然です。塩酸に水を加えたら塩基性になるはずがないですよね?水なんだから。
感覚的に理解できることがきっちり数式で証明されると気持ちいいですよね!
「強酸+弱塩基」を混ぜると塩は酸性になるんじゃないかな?
「弱酸+強塩基」を混ぜると塩は塩基性になるんじゃないかな?
と感覚的にわかりますよね? これは塩の加水分解という現象です。「強酸+弱塩基=弱酸」「弱酸+強塩基=塩基性」を数式で証明できる記事を書きました。
ぜひこちらの記事も確認してみてください。
いつも水の電離を考慮するべき?
今やったように、pHの計算をするときは水の電離によって生じる水素イオン濃度をいつも考慮するべきなのでしょうか?
結論、その必要はありません。
pH=6より小さい時([強酸]>1.0×10-6mol/L)は水の電離は無視できます。なぜなら酸が投げているH+からみると水の電離は小さくて無視できるからです。
酸や塩基の濃度が濃いときは、水の電離によって生じる水素イオン濃度を考慮する必要はありません。
酸や塩基を極端に薄めた場合にだけ、水の電離を考慮に入れてください。
詳しくは以下の記事で解説しています。
まとめ
知識として「酸性溶液を希釈してもpH=7より小さくならない」という事を知っている人は多いと思いますが、今回はこれを実際に計算してみました。
強酸にどれだけ水を加えても塩基にならないのは当たり前です。
これを定性的理解と言います。
一方理系なら計算を使って『定量的理解』ができるとどんどん実力が上がっていきます。
三年間抱えてきた謎が、この記事を読んで溶けました。ありがとうございます!
おお良かったです!3年間も抱えて来たんですね!
ずっと疑問でした!!!
ありがとうございます。
10^(-8) をさらに10^(-n)でn→∞にするとほんとにph7に収束しますね
納得です。
より深い理解ですね!素晴らしいです!
もともとの[OH-]は考えないのですか?
もともと?
[H+]は塩酸の電離によって生じた水素イオン濃度=1.0×10-8mol/Lと、水の電離によって生じた水素イオン濃度の合計 であるならどうしてOH‐は塩酸の電離度を考えなくていいの?
HClがOH–どうやって出す?